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《焼酎》30.むぎ焼酎 壱岐 200ml [9942.長崎県の焼酎]

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玄海酒造株式会社
長崎県壱岐市郷ノ浦町志原西触550の1

本格焼酎
アルコール分25%
内容量 200ml
原材料 大麦2/3、米麹1/3(米国産米・国産米)
(以上、ラベルより転記)




近所にあるスーパーで見つけた麦焼酎です。
麦焼酎といえば今日では大分麦焼酎が有名ですが、これは長崎県の壱岐(壱岐島)で造られた“壱岐焼酎”でした。
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ラベルには、“壱岐”という銘とともに、壱岐が“むぎ焼酎 発祥の地”である旨の表示がありました。
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なんでも、壱岐では大分で麦焼酎が造られるようになるよりもはるか昔から麦焼酎が造り続けられているのだそうです。
その歴史たるや、「壱岐焼酎に関する歴史的な資料は現在のところ何等残っていない。」(※1)ものの、「壱岐の麦焼酎の源流を求むれば藩政時代よりの農民の自家用焼酎に発していると思われるのである。」(※2)ということですから、200年~400年も前から造り続けられていることになるわけですよ。
しかもそれが自家用焼酎に由来するということは、大分麦焼酎のように商業目的で研究開発されたものではなくて、庶民の暮らしに根ざした身近な飲み物だったのでしょうね。

ではなぜ、壱岐では古くから麦焼酎が造られていたのでしょうか?
それについては、この記事の末尾で触れることといたします。




そんなこの壱岐焼酎ですが、品質表示を見ると、大麦とともに米麹が使われていることがわかります。
しかもその比率までもが“大麦2/3、米麹1/3”と明示されておりましたよ。
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ところで、麦麹でなくて米麹を使用していても、麦焼酎を名乗ることは許されるのでしょうか?

結論から触れると、麦焼酎を名乗ること自体は許されているのです。
なぜならば、大麦が「使用原材料の全部又は大部分(50パーセント以上)を占めるものであるとき。 」には、麦焼酎の冠表示(特定の原材料の使用を強調する表示)を使用することができるからです(単式蒸留しようちゆう製造業の表示に関する公正競争規約4条(1)、同施行規則3条1項)。

それどころか、壱岐焼酎、すなわち焼酎に“壱岐”という名称を付けるためには、必ず米麹を使用しなければならないのです。
逆に言えば、もしこれが麦100%で造られていたならば、たとえ壱岐で製造されたとしても、壱岐焼酎を名乗ることや銘に“壱岐”とつけることはできないのです。
(もちろん、“麦焼酎”を名乗ることは可能です。)

わが国には、酒類の地理的表示を保護する制度があります。
これはWTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)に基づく制度で、「ある酒類において、確立した製法や品質、社会的評価を勘案し、その原産地を特定して、世界的に保護しようとする制度(例:シャンパン=フランス シャンパーニュ地域)」(※3)なのだとか。
その地理的表示を保護する制度によれば、壱岐焼酎については「米こうじ及び長崎県壱岐市の地下水(以下この欄において「壱岐の地下水」という。)を原料として発酵させた一次もろみに及び壱岐の地下水を加えて、更に発酵させた二次もろみを長崎県壱岐市において単式蒸留機をもって蒸留し、かつ、容器詰めしたものでなければ「壱岐」の産地を表示する地理的表示を使用してはならない」(※4)と定められております。
米麹を用いることが、壱岐焼酎の伝統的な“確立した製法”であると評価されているわけでしょう。

一方、大麦2/3・米麹1/3の使用比率を強制する規定はないみたいですが、「壱岐焼酎は本格焼酎である。原料は米麹1に対して大麦2の割合で造る。この比率は昔から変わらない。」(※5)とあるように、これも壱岐焼酎が守りつづけてきた伝統的な製造方法の一つなのでしょう。

では、なぜ壱岐では麦焼酎に米麹が用いられてきたのでしょうか?
これについても、この記事の末尾で触れたいと思います。





それでは、いただいてみたいと思います。


まずは生(き)、すなわちストレートで。
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けっこうピリピリときますね。
芋焼酎みたいな華やかな香りがちょっとありますよ。
穀物っぽいふわっとした風味も少し感じますが、香ばしいというよりも、まろやかで幅がありますね。
軽い苦みもほんの少し感じます。


次に、お湯割りで。
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これは香りがはっきりしていますね。
華やかですが、芋焼酎ほど強くはなくて穏やかな香りが鼻へ抜けていきます。
穀物っぽい風味は薄まるものの、その存在はわかります。
一方で、酸味が出てきて、さわやかさがはっきりしてまいりましたよ。
苦みは引きますね。


最後に、残ったものをロックで。
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口当たりはトロっとしていますが、ちょいピリです。
ふっくらした風味はこれが一番わかりやすいと思います。
香りと軽い苦みとは、生(き)と同じくらいです。


私としては、香りと酸味とがはっきりしていたお湯割りが好みでした。
ですが、ロックのふっくら感もなかなかいけると思います。
焦げ臭さや荒々しさがないことからおそらく減圧蒸留なのでしょうけれど、それでも十分に楽しませていただきました。
ただ、ちょいピリはなんとかならないものでしょうかね。

今日においても壱岐には7軒の蔵元さんがあって、壱岐焼酎を世に送り出してくださっているのだとか。
これはいつか壱岐へ行って、壱岐焼酎集めをしてみたくなってきましたよ!





★☆★☆壱岐焼酎に関する疑問点★☆★☆


1.壱岐では、なぜ古くから麦焼酎が造られていたのか?

壱岐は長崎県に属しておりますが、江戸時代は平戸藩(松浦氏)の支配下にあったそうです。
どうやら平戸藩では大麦は年貢から除外されていて、壱岐の島民はその大麦を栽培して主食としていたのだとか。
しかもそれが余るほど採れたことから、保存が効く焼酎の原料として各家庭で使用されていたそうです。
このことについて、文献には以下のような記述がありました。

「(当時の壱岐では)大麦や裸麦が大量に生産され、殊に大麦は年貢からも除外されているので主食としても余剰を生じたものと思われる。この余剰の大麦によって自家用の麦焼酎が伝統的に製造されたのではないかと考えるのである。」(※6)

 そんな壱岐に16世紀ごろ、大陸から蒸留技術が伝えられた。当時、壱岐は平戸松浦藩の領地だった。重税を課された島民の手元には米はほとんど残らなかったが、麦だけは年貢の対象からはずされていたため、島民は麦を主食とするようになる。少し余剰が出ると、麦でどぶろくを自家醸造していた。どぶろくは作り置きできなかったが、蒸留技術のおかげで、日持ちもし、長く置けば置くほどうま味が増すという、不思議な新しい酒ができた。これが、むぎ焼酎発祥の地「壱岐焼酎」である。」(※7)

冒頭で、「壱岐の麦焼酎の源流を求むれば藩政時代よりの農民の自家用焼酎に発していると思われるのである。」(※2)という記述を引用いたしましたが、それはこういうことだったのですね。


2.なぜ米麹を用いるのか?(予想:些か長くなります)

大麦2/3・米麹1/3の使用比率は壱岐焼酎が守りつづけてきた伝統的な製造方法の一つであると紹介しました。
では、なぜ米麹を使うのでしょうか?
上記1.では大麦が年貢から除外されていた旨の記述を紹介しましたが、ならば麹も大麦で造ろうという発想はなかったのでしょうか?

すみません。
この点について明確に述べている文献の記述に出会うことはかないませんでした。
それ故、ここでは私の予想とその根拠とを紹介いたします。

結論からいうと、江戸期の庶民にとって、麦で麹を造ることは難しかったのではないかと、私は勝手に予想しております。


古い文献を読むと、焼酎に用いられている麹については、米麹を用いることが当たり前であるかのような記述がありました。
 本格焼酎は、清酒のもろみにあたる二次もろみの掛原料の種類により米製、甘藷製、麦製、黒糖製、その他に分類されている。しかし、清酒の酒母にあたる一次もろみは原則的に米麴を使用した全麴仕込みである。(但書として、八丈島の甘藷焼酎は麦麴を使用しているなどの例外がある。)」(※8)

また、いいちこの蔵元さん(三和酒類株式会社)の共同経営者の話を紹介している文献には、「この商品が画期的だったのは、主原料の大麦を糖化するのに必要な「麹(こうじ)」も含め、すべてを大麦で仕上げた一〇〇%麦焼酎という点にありました。それまでは清酒も焼酎も麹は米で造るのが一般的だったのです。麦焼酎発祥の地とされる長崎・壱岐の壱岐焼酎も米麹です。当時は麦麴という発想自体がありませんでした。憶測ですが、二階堂さんは、味噌や醤油の製造が盛んな大分県南部の臼杵の麦味噌麹からヒントを得たのではないかと思います。」(※9)という記述があったり、あるいはいいちこについて書かれた文献には「焼酎は普通芋にしろ、米にしろ、米麹を使う。一般の白麹カビの場合、米のほうが繁殖力が高く、糖化が最もスムーズに進むからである(中略)。麦麹を使うということは、本格焼酎の歴史のなかでも初めてのことだった。これに先進的に挑んだのは二階堂酒造の大きな手柄である。それがどうしてできたのかは不明なところが多いが、大分では麦味噌をつくる習慣があった。したがって麦に麹菌を寄生させるということが偶然できたのではないだろうか。」(※10)と記されておりました。

さらには、二階堂酒造さんのことを紹介している記事には、以下のような記述がありました。
難点は、ちょっと触れたように、ムレに弱く、腐りやすいことであった。
(中略)
 「ムギコウジの開発は、昭和20年の終わりで、たしか麦の統制が解除になった前後だと記憶しています。しかし、技術上のネックである腐りやすさにどう対処するかは、試行錯誤の繰り返しで、なかなかうまい解決法はみつかりませんでしたね。」(二階堂社長)
 ようやく量産化のメドがつき、力の強いムギコウジが二階堂酒造の蔵に生まれたのは昭和30年の初めである。研究開発に着手して、前後三年あまりの歳月がたっていた。」(※11)


これらの記述から、下記三点がわかります。
(A):大分で麦麹が普及する前までは、焼酎で使う麹と言えば米麹だった。
(B):米麹のほうが糖化力(麹が主原料を溶かす能力)が高い。
(C):麦麹は腐りやすい。

特に(C)の腐りやすさについて、味噌用麦麹について解説している文献には「また、麦の原料の特長から米麴よりも、モリニア属(不完全カビの一種)に侵害され易く、水分が多くべたついた蒸し麦では雑菌(乳酸菌など)の異常繁殖も起こり易い。」(※12)という記述がありました。
さらに同じ文献では、「特に味噌用原料麦としては、麴菌の良好な生育のために、種皮が残らず、胚乳のでん粉層が露出している必要があるが、現在最も多く採用されている研磨式精白機では、かなり精白歩留りを下げないと適切な搗精度が得られない。」(※13)とか、あるいは「特に麦は米と異なり、吸水速度が速く、洗浄にかかった時から水を吸いはじめるので、短時間の浸漬操作で適切な吸水を行なわせ、かつ水分ムラの発生を防止しなければならない。」(※14)ことなどを挙げて、「他の麴に比べて製麴上の困難が多いとみなされる麦麴」(※15)と評しておりました。

冒頭で壱岐焼酎は藩政時代の自家用焼酎製造に由来することを紹介しましたが、技術もそれほど高くなく環境も整っていない江戸期の“家庭”で麹を造るわけですから、製麹が難しい麦麹を避けて、簡単かつ安全に造りやすい米麹を麦焼酎に使う慣習が根付いたのではないかと予想することも頷けると思います。
あるいは種麹だけを専門的に製造する業者が存在したかもしれませんが、それでも麦で製造することは難しかったのではないでしょうか。

また、「いっぽう壱岐は標高二一三メートルの岳ノ辻を最高峰に、あとは長崎県下第二位の広さの深江田原(たばる)となだからな丘陵が広がっている丸くて平坦な島である。しかも対馬海流の影響で、年間をとおして温暖で雨が多い。島の内陸部は、これが離島かと思うほど手入れの行き届いた田畑が広がる屈指の農業地帯なのである。」(※16)という記述にあるとおり、壱岐は離島ではあるものの農地が豊かに存在するそうですし、これはおそらく昨今に造成されたものではないでしょう。
ということは、たとえ年貢の対象となっていた米であっても、麦焼酎の麹に使用する分(焼酎原料全体の1/3か、あるいはそれ以下か。)だけを確保することは、壱岐の人たちにとってはそれほど難しいことではなかったのではないでしょうか。



(※1)目良亀久『焼酎風土記 壱岐の麦焼酎物語』p.169(日本醸造協會雜誌 71巻3号 p.169-172 1976.3)
(※2)(※1)p.170
(※3)原田知征『トップに聞く!麦焼酎発祥の地 壱岐の島で、世界品質の焼酎づくり。』p.25-26(FFG調査月報 92号 p.24-29/35 2016.6/7 FFGビジネスコンサルティング)
(※4)酒類の地理的表示に関する表示基準(国税庁告示第19号)1(3)イ、同附則2、一覧別紙
(※5)山内賢明『壱岐焼酎の歴史と本格焼酎業界の抱える課題』p.745(日本醸造協会誌 104巻10号 p.743-748 2009)
(※6)(※1)p.171
(※7)(※5)p.744
(※8)坂口謹一郎監修・加藤辨三郎編『日本の酒の歴史』p.505(菅間誠之助執筆『本格焼酎』p.501-562中 1977.8 研成社)
(※9)本山友彦『西太一郎聞書 グッド・スピリッツ 「いいちこ」と歩む』p.90(2006.10 西日本新聞社)
(※10)平林千春『奇蹟のブランド「いいちこ」』p.12(2005.6 ダイヤモンド社)
(※11)岩井正和『徹底企業研究 味づくりに徹し、売るのは口コミ 一子相伝、大分むぎ焼酎の“元祖” 二階堂酒造』p.36(月刊中小企業 31巻8号 p.34-37 1979.8 ダイヤモンド社)
(※12)好井久雄『味噌用麴-特に麦麴について-』p.10(味噌の科学と技術 287号 p.5-11 1978.1 全国味噌技術会)
(※13)(※12)p.6
(※14)(※12)p.8
(※15)(※12)p.5
(※16)山内賢明『壱岐焼酎 蔵元が語る麦焼酎文化私論』p.15(2007.11 長崎新聞新書020)
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